我が国で肺癌や大腸癌とともに死因として近年増加している癌の一つです。毎年3万人以上の方が死亡されており、ニュースでも膵がんの病名を聞かれることが多くなってきております。
年齢でみると40-80歳代が全体の95%を占め、特に60歳代以降に増加します。
原因
食習慣、肥満、糖尿病、喫煙との関係が示唆されています。その中でも喫煙は比較的高い危険因子ですが、ピロリ菌感染と胃癌や、飲酒と食道癌のような強い危険因子ではありません。膵がんがいまだ治療の難しい癌である理由として、膵がん発生が警戒される危険因子が明確ではなく、誰にでも起きうる癌であるということがあげられます。
癌の特徴
膵臓は膵頭部、膵体部、膵尾部に分けられます。膵がんの65-70%は膵頭部に発生する。膵臓の中には消化液である膵液を流す膵管という細い管がありますが、膵がんの多くはこの膵管から発生します。
膵がんの特徴として以下のものがあげられます。
1)膵臓やその周囲の組織に浸み込むように発育する(これを浸潤性発育といいます)。
2)リンパ節転移を起こしやすい。
3)肝転移を起こしやすい。
膵がんは2cmを超えるとリンパ節や肝臓に転移しやすくなります。そこで2cm以下の段階で膵がんを発見することが重要になります。
4)早期の発見が難しい。
膵がんの症状として、みぞおちや背中の重苦しさや体重減少、黄疸などがありますが、お腹のおもくるしさや体重減少は他の病気でもおこります。膵がんの多くは初期には無症状です。胃や大腸の癌は小さくても内視鏡で発見することが可能ですが、膵臓は腹部の最も背側に存在しており超音波検査やCTなどでなければ発見できません。
5)治療後の再発率が高い。
手術が最も有効な治療法ですが、膵頭部にある場合は胃・胆管なども切除する必要があります。進行してから発見された場合は他臓器への転移のため手術が不適となることも多くあります。手術により切除しても再発率が高いため抗がん剤を用いた化学療法が併用されます。様々な治療法が試みられておりますが、胃や大腸の癌に比べて治療成績はいまだ低いのが現状です。
膵がんに対してどのように診療すべきか
胃癌に関してはピロリ菌との関連が明らかですので、胃カメラに加えてピロリ菌を除菌することにより胃癌のリスクを格段に低くすることができます。
大腸癌に関しては大腸カメラ等によって手術により根治可能な状態で発見される方が増えてきました。
乳癌などに関しても同様で治療成績は向上してきております。
それでは、いまだ治療成績が不十分な膵がんに対して私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。
膵がんに特異的な遺伝子の検査などの報告がなされておりますが、まだ実用的ではありません。現状で最も有効である検査に超音波検査があります。
超音波検査は簡便で、かつCTやレントゲンのような放射線被爆がなく大変安全な検査です。
CTやMRIのような大きな機器ではなく診療所でも行えます。
CTなどに比べると小さな機器ですが、その膵臓の評価能はCTやMRIに比肩できるものです。膵がんは浸潤性に発育しますので通常のCTでは発見しにくく、造影剤という薬剤を血管内に注入する必要がありますが、超音波検査ではそのようなことは必要なく、プローブという手のひら大の機器をお腹にあてるだけです。
膵がんの根治を期待する場合は2cm以下の小さい段階で発見することが肝要ですが、このような小さい段階で見つける上で超音波検査は非常に有用で、簡便性を考慮するとCTやMRIに勝る検査法です。
欠点は、胃や大腸のガスが多かったり、脂肪などでお腹が大きい場合は超音波画像が妨げられて膵臓が描出できないことがあることです。
この欠点があるとしても、「なんとなくお腹の調子が悪く膵臓のことも心配だなあ・・」と思う方には、受診されたその日に超音波検査を行えるくらい手軽な検査ですので、偶然に見つかることが多い膵がんの診断においてとても有用であることはご理解いただけるのではないでしょうか。
お腹にガスが多いと超音波が通りにくいので、厳密に超音波検査をするためには4時間以上の絶食が必要ですので、例えば朝食を抜いて午前中の検査になります。
しかし、最近の超音波機器は性能が向上しており、実際には食事が少々食べても膵臓が描出できることも多いため、来院した方で心配な方はその日に検査を行うこともあります。その場合、十分に膵臓が描出できなかった場合は後日改めて来院して頂きます。
超音波検査で全てが明瞭にわかるわけではありませんが、小さい膵がんを「偶然に」発見しうる超音波検査を皆様にもっと活用して頂きたいと強く思っております。