確定診断の検査法であるPCR検査は発症2週以内の感染の検出が可能ですが、感染から3週以上経過するとウイルスが減少するため検知が困難となります。
抗体検査は発症してから3週以降の評価に適しており、特にIgGは長期間陽性となります。
【PCR検査・抗体検査の概念図】
新型コロナウイルス抗体検査について
抗体にはIgM抗体とIgG抗体等があります。IgM抗体は感染初期に作られる弱い抗体で後期になると低下します。IgG抗体は感染後期に作られる強い抗体で、完全にウイルスを排除する抗体(中和抗体)が含まれます。
通常の感染症では、最初にIgM抗体が増加し、続いて後期にIgG抗体が増加して治癒します。
しかし、新型コロナウイルスでは、IgG抗体が先に上昇し、その後にIgMが増加するという変わったパターンが認められ、その理由は不明です。
日本人を含めたアジア人が、以前に新型コロナウイルスに類似した病原体に感染しており、すでに免疫の記憶をもっているために強い抗体であるIgG抗体がすぐに上昇するのではという説もありますが、あくまでも一つの説であり不明です(この機序がアジアで重症患者が少ないことに関連しているのではとの指摘もありますが、説の一つにすぎず不明です)。
新型コロナウイルスでは発症後10日以降にIgGやIgM抗体が上昇し、15日後以降はほぼ全例が抗体陽性になると報告されております。強い抗体であるIgG抗体が再感染を防ぐのか、いつまで免疫が保たれるのかはまだ不明です。
国立感染症研究所による検討結果を以下に抜粋します。
発症後日数 |
IgM抗体
陽性率 |
IgG抗体
陽性率 |
1~6日 |
0.0% |
7.1% |
7~8日 |
10.0% |
25.0% |
9~12日 |
4.8% |
52.4% |
13日~ |
59.4% |
96.9% |
(A社製キットを使用した検討。新型コロナウイルス感染症診療の手引き第二版より抜粋)
検査結果の解釈
当院では抗体検査にSTANDARD™ COVID-19 IgM/IgG Duoを使用しております。本キットでは、感染8~10日後の感度(感染がある方を陽性と正しく判定する率)は92~95%、特異度(感染していない方を陰性と正しく判定する率)は約96%であるとの試験成績が示されております。
検査結果は以下のように判定されます。
|
IgM抗体
陰性 |
IgM抗体
陽性 |
IgG抗体
陰性 |
感染歴なし |
感染初期
(or疑陰性) |
IgG抗体
陽性 |
感染歴あり |
感染早期 |
新型コロナウイルス感染から7~10日経過すると、周囲への感染リスクは減少することが判明しております。(厚生省では自宅療養者の場合、発症から10日経過しかつ、症状改善から3日たてば療養解除としております)
以上も勘案すると、具体的には以下のように解釈されます。
- IgM抗体陰性・IgG抗体陰性 → 新型コロナウイルスへの感染歴なし
- IgM抗体陰性・IgG抗体陽性 → 新型コロナウイルスの感染歴あり
(感染から2~4週間以上経過しているため、検査時にはウイルスは存在せず、周囲に感染させるリスクはないと判断されます)
- IgM抗体陽性・IgG抗体陽性 → 新型コロナウイルス感染の比較的早期
(感染後1~2週間で、検査時にもウイルスが存在する可能性があります。感染の確認のためPCR検査が必要か検討する必要があります。
- IgM抗体陽性・IgG抗体陰性 → 新型コロナウイルス感染の早期の可能性
(感染から1~2週間の可能性があり、ウイルスが存在する可能性があります。感染の確認のためPCR検査が必要か検討する必要がありますが、ウイルスが存在していなくてもIgM抗体が陽性となっている事例(疑陽性)も多く報告されております。
抗体が陽性であった場合でも、検査の時点で新型コロナウイルスに感染しているかはPCR検査を行わなければ分かりません。
従来のコロナウイルス(通常のカゼ原因となるウイルスの15~30%ほどは新型コロナ以前の従来のコロナウイルスです)に反応している可能性もあり、陽性の結果については、総合的に判断する必要があります。
検出された抗体が感染を完全に抑える中和抗体かどうかは不明です。中和抗体であっても、いつまで抗体が体内に存在するかは現段階では不明で、有効な抗体(中和抗体)でも十分量がなければウイルスを封ずることはできないので、今後新型コロナウイルスの感染を防げるとは保証されません。
IgG抗体が陽性で感染歴があれば免疫が記憶しているため、抗体の質や量などにかかわらず、新たに感染しても早期に免疫が立ち上がり、重症化を防げる可能性はあります。
以上のように、抗体陽性であった場合の解釈については、現段階では定まっていない点があります。
しかし、ウイルスが存在している方に誤って抗体陰性と判定する事例は非常に少ないと報告されておりますので、抗体検査で陰性と判定された場合は、感染歴がないと判断して現状では支障ありません。
追記)感染後の抗体の推移について新たな報告があり追記します(7月3日)
新型コロナウイルスに対する抗体は感染し治癒すると、2ヶ月後に低下するという報告があります。
また、症状が強い方は抗体価が高く、軽症の方は抗体価が低いとの報告もあります。
こららは、最近発表された論文上の記載であり、医学における確立した知見ではまだありませんが、治癒後に抗体価が下がるという報告は重要な所見と思われます。
抗体価が低いと再感染しやすくなるか、抗体価がどれだけ高ければ感染を防げるかどうかはともに不明です。
新型コロナウイルスは発見されて半年程度しかたっていない病原体で、不明な点が多々あります。抗体検査は過去の感染歴を調べる等の疫学調査や、感染の可能性のスクリーニングには有効な手法ですが、臨床では診断確定には用いられません。検査成績の評価や、検査手法は日々更新されております。今回の記述は2020年7月初旬の資料をもとに作成しましたが、内容は今後も適時更新いたします。
2020年 7月3日
西大井内科